2019年3月,国家試験が終わり,理学療法士の卵が旅立ちます.
今回,理学療法士にとって必要な知識として,各組織の構造や治癒過程についてまとめました. この知識を把握することで,各組織が損傷したときに何を意識して治療をしたら良いか?受傷後〜日.今,何をしなければならないか?などの必要知識を得ることが出来ます. この知識を得ることで,骨折した患者さんにどんな刺激をいつ与えればよいか?肉離れした患者さんにいつどのような治療をすればいいか?など考えられることができるかと思います.
少々長くなりますが, ご覧になっていただければと思います.
1.はじめに
理学療法とは,人体の運動学的,解剖学的,組織学的な欠陥を生理学的なアプローチを用いて治療を行なう事である.そして,治療には組織の名前や組織の作用だけではなく,組織の機能,構造を理解し,それに効果的な生理学的知識も必要となる. そこで今回は,理学療法士が治療対象となる組織の構造と損傷後の治癒過程についてまとめた.
2.理学療法士が扱う組織とは
理学療法士の扱う組織は以下の4組織に分類される.
大まかに4種類に分類
①.上皮組織
②.支持組織
③.筋組織
④.神経組織
組織を細分化すると,皮膚,皮下組織(脂肪,血管,神経) 筋膜,筋肉,関節包,靭帯,腱,半月板や軟骨,骨,etc..などが存在する.
写真のように多くの組織が存在する.
2−1.組織の機能と構造
①上皮組織
上皮には血管はなく,各細胞が集団になって連なっている.上皮細胞の働きは,表面の保護,栄養分の吸収,消化液などの分泌,感覚作用などである.
②.支持組織
支持組織は発生学的には中胚葉の間葉組織に由来している.
支持組織は血球や発芽細胞などの細胞と細胞間質としての線維と気質からなり,細かな細胞間の線維と線維以外には気質としてタンパク質や糖が含まれ(軟骨),無機物であるリン酸カルシウム塩を含むものまである(骨・歯).
支持組織は1結合組織,2軟骨組織,3骨組織,4血管・リンパに分類される.
支持組織内の①結合組織では疎性結合組織,密性結合組織,細網線維,脂肪組織と4つに分類され,各々の組織は他の組織の構造を支持したり,他の組織の機能の補助を行ったりとする.
✍結合組織組織について
結合組織に含まれる組織として,下記の二つの組織が結合組織機能としての働きを担う.結合組織は組織の損傷が起こることでこれら結合組織の元となる血球などの細胞などが主に炎症期の反応や発芽を促す.また,組織を育て増殖し治癒を担っている.
1結合組織,2軟骨組織,3骨組織,4血管・リンパに分類されている支持組織は,主に下記の3種類の線維が各組織ごとに比率を変化させ存在している.組織自体の構造や組織の修復に関わる支持組織内の線維は以下の3つに分かれそれぞれの機能に分かれる.
上記の組織のなかでも特にコラーゲン線維は組織に強度と形態を与える機能を有している.治癒にもコラーゲン線維は重要な要素にもなり,またさらに機能制限の原因にも一役を担っている.
✍膠原線維(コラーゲン線維)
コラーゲン線維は身体の部位によりその性質が変化する.しかしながら,人間のほぼすべての部分を形成してしているのがコラーゲン線維である.
以下に,その種類と機能について簡単にまとめている.
(コラーゲンの形態変化)
・弾性:力を取り除くと組織は元に戻る特性がある 高強度短時間の伸張
・可塑性:弾性制限を超えると組織は元の状態に戻らない(可塑性変形)
・Stffness:変形に対する組織抵抗力
・粘性:組織は組成の違いにより加わる負荷や負荷時間に対し異なる反応を示す。
高負荷:弾性反応
低負荷:可塑性反応
臨床的の治療場面では,コラーゲン線維は伸張力が感じない範囲の伸張力までゆっくりとしたスピードで伸ばし保持する事で,コラーゲンの可塑性変化を引き起こし,組織が構造的に伸張していく.
✍コラーゲン線維の詳細
Ⅰ型コラーゲン(線維性コラーゲン)
最も普遍的な膠原線維を形成するコラーゲン線維.最も人体に多く存在するコラーゲン線維であり,腱・筋膜・皮膚・骨などに多く見られる.骨に大量に含まれ,骨に弾性力を持たせる働きがある.皮膚や真皮にも多く存在し,皮膚の強度を生み出す働きもある.おもなコラーゲン線維の主成分である.
Ⅱ型コラーゲン(線維性コラーゲン)
軟骨や眼球の硝子体,脊索に存在するコラーゲン線維で原線維としてぞんざいするため,線維を形成しているわけではない.
Ⅲ型コラーゲン(線維性コラーゲン)
リンパ組織、脾臓、肝臓、平滑筋(内臓の筋肉)などに見られる細網線維や胎生期そして創傷治癒の初期段階に出現するコラーゲン線維.大量の糖分を含み,Ⅰ型コラーゲンとⅢ型コラーゲンが共存しお互いの働きを助ける.創傷治癒課程の初期段階で増殖し,傷口の閉鎖に役立つ,正常な治癒過程にのるとⅠ型コラーゲンにリモデリング(変化)し,元の皮膚組織や腱組織(Ⅰ型コラーゲン)に戻るが,Ⅲ型コラーゲンの時期に繰り返し外力を加え続けると,慢性炎症化しⅠ型コラーゲンに変化せず,瘢痕組織(Ⅲ型コラーゲン)のまま治癒する.
Ⅳ型コラーゲン(非線維性コラーゲン)
基底板を作るコラーゲン線維,トロポコラーゲンが重合せず糖蛋白結合して膜組織を形成する.平面的な網状のネットワークを形成し,基底膜の構造を支えている.上皮組織の裏打ち構造であり,足場となっている.
Ⅴ型コラーゲン(線維性コラーゲン)
Ⅰ型コラーゲンとⅢ型コラーゲンの中に含まれる組織の中に少量含まれる極めて細かい組織
Ⅵ型コラーゲン(非線維性コラーゲン)
細線維の成分である.コラーゲン細線維とは別の繊維状構造を成し,細胞外基質(細胞外マトリックス)に存在する.
Ⅶ型コラーゲン(非線維性コラーゲン)
Ⅰ型コラーゲンとⅢ型コラーゲンの線維を結びつける線維.Ⅳ型コラーゲンと同様に基底膜の構成要素の成分である.
Ⅷ型コラーゲン(非線維性コラーゲン)
血管内皮細胞が作っている.形状変化を起こしやすいコラーゲン線維である.
✍コラーゲンの変化って?
不動や過用により,体内の環境の変化が起こる.特に変化を起こす組織は筋組織・膜組織であるが,体内のコラーゲン線維はどのように変化を起こすのか下記にまとめた.
不動や過用による変化は,体内の水分・グルコサミノグリカン,ヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸などの基質に変化が起こる.しかしながら,コラーゲンの総量に変化はない.
よって,不動や過用によって,コラーゲン組織に変化は起こらないが周囲の基質に機能障害(水分現象や架橋形成)が起こることにより,コラーゲン組織の機能の変化が起こる事が理解できる.
✍結合組織の問題に考えなければならないヒアルロン酸の存在
結合組織として考えられる,疎性結合組織,密性結合組織,細網線維,脂肪組織にはヒアルロン酸が豊富に含有している.結合組織とヒアルロン酸との間には密接な関係があり,その結果ヒアルロン酸の状態変化により,結合組織に影響を及ぼす.
✍弾性線維
弾性線維とコラーゲン線維の含有比率により,その組織の構造の変化が起こる.
筋膜組織のような硬いシート状の素材ではコラーゲン線維が豊富に含有している.しかし,筋線維のような柔軟性がある組織はより,弾性線維が豊富に含まれている.
3.運動器系の器官における各組織の構造と治癒過程
第3章は,各構造体(骨,筋,軟骨,半月板,靭帯,筋膜)の損傷修復について説明していきます.
3−1.骨
骨の損傷(骨折,骨挫傷)における筋の修復では,下記の3期を経て骨の再生が起こる.その中で修復期に至る時期では,仮骨が形成され負荷に対する強度が増してくる.その際には骨に対し生理学的な刺激が必要となる.
下記にも示すとおり,骨の強度に必要な刺激は骨に対して,張力と圧縮力が必要とされる.そのため,骨折後のリハビリテーションにおいて,早期のストレスを掛ける必要がある.これらの外部刺激により,骨梁などが形成され骨の強度がましていく.
骨折の治癒過程について,様々な筆者が病期の分類を行っているが,概ね記載されいる事項は変わらない.概ね仮骨形成は1週〜3週にかけて行われ,徐々に外部刺激により,骨の再生が促される.よって,少なとも,術後1週頃からは徐々にストレスを掛けていく必要がある.また,荷重制限などを有する患者に関しても,プロトコルで許されている荷重量までに関しては,「歩行をするため」というよりも「骨の再生を促す」ためにも複数回の荷重訓練は必要となってくる.
3−2.軟骨・半月板
軟骨と半月板について以下に記載した.軟骨コラーゲンは2型コラーゲンであり,圧縮力に対応するために存在するコラーゲンを有している.軟骨の栄養は関節内の滑液より得るため,軟骨の再生を促すために,関節内循環を高めるような手技が必要となる(ie.バイブレーション,トラクション,Rom-Exなど).また繰り返しとなるが,2型コラーゲンは圧縮力に適応するコラーゲンのため,コラーゲンの再生を促していくために,圧縮力を加えていく必要がある.大抵の場合,軟骨損傷による術後の患者は荷重制限(非荷重)時期があるために,Bedsideでの関節に対するコンプレッション(トラクションの逆)を他動的に繰り返し加えていくような手技を用いることで軟骨の再生を促すことができる.
また,半月板は1型コラーゲンであり,牽引と張力に対応するための構造を有している.自然治癒を促すためには,半月板組織の血行が存在する必要があるため,半月場板の損傷部位についての理解も必要である.半月板の治癒を促す治療としては,下記にも示すとおり,伸張刺激が必要となる(ROM-exやTraction).また,単関節筋のエクササイズを行うことで関節の安定化を向上させる必要もある.
3−3.靭帯
靭帯に関しては,1型コラーゲンが90%を有する…そのため張力に対応するために存在するコラーゲン組織である.靭帯はコラーゲンの許容伸張範囲を超えた場合に損傷を起こす.
1型コラーゲンである靭帯は,損傷して間もない時期は3型コラーゲンが創傷治癒として靭帯組織を修復する.そのため,靭帯組織の場合早期に張力刺激を与え続けると,靭帯が慢性炎症化し瘢痕形成を促してしまう恐れがあるため,靭帯損傷の場合は修復期に過度なストレスを与えないように注意しなければならない.
また,修復後は周囲の組織とともに治癒していくことが度々見られるため,改変期に至った時期に於いて,靭帯の走行に対し垂直方向にフリクションマッサージなどをおこない,靭帯の配列や,他の組織との分離を促す徒手治療を行う必要がある.
3−4.腱組織
腱組織も靭帯組織と同様1型コラーゲンが主成分となっている.損傷が間もない時期は同様に3型コラーゲンが創傷治癒に働く.アプローチに関しては靭帯組織と同様の考え方を持っていただけたら良い.靭帯組織の違いは治癒にかかる時期である.比較的靭帯に比べ腱組織は早期に治癒が認められる.しかし,筋組織の収縮により,腱組織の伸張が行われるために,腱断裂の治療には注意が必要である.
アキレス腱炎のような慢性炎症には,遠心性収縮トレーニングを加えていくと効果的であるという報告もある.こちらに関しては割愛するが,痛みを有しても負荷量を上げて遠心性収縮はやるべきだと言うのが経験的な認識である.
3−5.膜組織
膜組織の損傷は筋組織が筋断裂となると共に筋膜線維が裂ける.裂傷は創傷治癒の治癒過程と同様である.そのため,この項目では,膜線維の機能と機能障害の要因について記載する.
筋膜線維の機能障害は層構造となっている筋膜線維間に存在する,潤滑油の役割となっているヒアルロン差の変化によって,筋膜の滑走性が変化する.ヒアルロン酸は過用症候群によって変化した局所PHの変化(酸化)や基質の凝集化に伴う,局所脱水によって粘稠性が増加する.
そのため,膜組織の機能障害に対する治療対象は筋膜の滑走性が低下したものに対してはヒアルロン酸の状態の変化を促す事が目的となり,筋膜の構造の変化(コラーゲン組織の架橋形成)に対しては筋膜組織に対して,低強度の伸張を持続的に加える徒手手技が用いられる.また,膜組織の周囲のヒアルロン酸の凝集化により,膜組織と密接に連結した筋組織にも影響を及ぼす.
3−6.筋組織
微細構造では,筋間中隔,筋線維束などの多くの結合組織で包まれている.すなわち,筋組織はコラーゲン線維のネットワークで形成されている.
一定期間の不動はコラーゲン線維の肥厚,硬化,弾性・伸張性低下が起こりその結果,筋自体の伸張性の低下が起こる.
コラーゲン繊維の変化が起因となり筋線維の不適当な動員などにより筋実質の変化(微細断裂,筋トーヌスの上昇)により,筋の損傷が生じる.筋の損傷には段階があり,以下に記載する.
筋の治癒過程に関しては,破壊層・修復層・再構築層の3層に分けられる.
破壊層では,損傷した構造を除去するための層(十分な血液の供給が必要)
重要な炎症は損傷した筋線維や内皮細胞,線維芽細胞から形成されるサイトカインや成長因子によって引き起こされる.その後,免疫細胞の増加(血管拡大や血管浸透性の上昇)が起こる.
修復層では,
受傷後2〜3日衛星細胞(基底膜と筋線維鞘の間に存在)の分裂が起こり細胞浸潤の時期に続き筋芽細胞(筋肉の赤ちゃん)が出現する
筋芽細胞:特徴:収縮性アクトミオシンを持つ特殊な線維芽細胞
機能:傷の縮小を引き起こす.
二次損傷:内出血と過度な炎症反応により細胞質におけるカルシウム濃度の上昇を引き起こし,蛋白質分解が活性化され,筋線維などを自己消化し内外構造の破壊と更に炎症物質が放出される.
再構築層では,
組織を再構築し本来の安定性と機能回復する層
受傷後2週の間に筋原線維は規則正しく整列し正常な筋細胞に近づく
損傷が大きい場合は瘢痕や陥凹を残し再損傷をきたすことがある‥
また,治癒課程の中で正常な治癒過程に乗らない(炎症の長続き,血腫の形成,衛星細胞の不足)場合に瘢痕組織の形成が起こる.瘢痕組織はⅢ型コラーゲンであり初期固定に働くコラーゲン線維である.3型コラーゲンは迅速に架橋を形成するが,強度や伸張性はないため,刺激を受ける度に微細損傷を引き起こし,刺激性の慢性炎症となる.治癒過程上,筋損傷部位への負荷は3〜5日後以降に行う.それ以前に対する負荷は損傷部位の炎症が長引き瘢痕形成をしてしまう恐れがある.
そのため,痛み止めを飲ませての早期の治療は危険な因子である.
筋組織の障害では上述した,『損傷』のみならず,複数の筋の状態変化により障害を引き起こす.各々の筋の状態変化は各々の病理があるため,その組織病理にあった生理学的アプローチが必要となる.
3−7.皮膚(創傷治癒)
皮膚の治癒過程に関しても,筋損傷と同様に治癒過程時期における正しい外部刺激を入力する必要がある.
血管期では,創傷による出血、血小板における凝固,血管反応による治癒物質の輸送が起こる.
細胞期では,線維芽細胞の遊走により,局所の創傷収縮を促進して創部が安定する.
<皮膚の不完全治癒>
コラーゲンの余剰沈着:弾力性に乏しい瘢痕形成
肥厚性瘢痕:創傷の境界内にとどまる過剰コラーゲン
ケロイド:創傷の境界を超えて過剰なコラーゲン増殖
瘢痕組織と化した創傷は瘢痕であるⅢ型コラーゲンに生理学的応力(圧力や張力)を与え,再度組織損傷を起こした後にリモデリングを行った結果Ⅰ型コラーゲン再建する事ができる…
4.まとめ
人体を構成している軟部組織の治癒には共通点があり,微細損傷が起こった際には炎症→組織増殖→リモデリングがおこる.しかしながら,組織を形成している線維や細胞,基質は各組織ごとに異なってくる.
線維やコラーゲンタイプの違いにより,また組織の状態(炎症期?)などによっても,与えるべき刺激や抑えなければいけない刺激が変化する.
治療を始めようとしたその時に,その傷害した組織はどのような回復過程にあるか?その正常な回復過程に載せ,正しい生理学的な刺激を与えることが運動器疾患の治療に必要な要素となる.
組織の修復過程には本来の組織による再生と瘢痕組織による再生とが同時に進行するため,その治癒過程の早期において強い刺激を与えてはいけない.筋肉の損傷であれば2週間は刺激は抑えたい.皮膚であれば30日程度強い慢性的な刺激などは避けてほしい.
そのため,マッサージやモビライゼーションなどの徒手手技に関してもを損傷組織やその損傷組織の治癒過程を考えずにルーティンワークを行うことは非常に危険である.特に大事なことは,早期の時期にストレスを与え続けないことである.外来の初回診療では受傷してどれくらいの時間が立っているのか?その結果,今自然治癒ではどのような組織の治癒過程の状態なのか?を考える必要がある.痛くなったのが機能なのか?1週間前なのか?で治癒過程は異なるからである.
そのなかで,上記のような病理の状態を理解し,どのような理学療法,生理学療法を与えていくかを考えたい.
また,組織の状態で考えられる要因,治療を上記にまとめた.
また,下記では関節可動域の制限を起こす因子とその原因についてまとめた.関節可動域制限の原因には多く存在する.これらの原因における病理は異なる.そのため,それぞれの病理にあった生理学的アプローチを行う必要がある.