運動器の理学療法士は以下に説明する【問診】と次に行なう【観察と視診】で「8割型の機能診断を仮説立て」します。

評価を行う際に,理学療法士は経験の積み重ねとエビデンスをもとに問題点を整理し,識別している.そのためには,いかに身体障害の問題を予想するための質問をすることが重要になってきます。

問診による必要な情報にはいくつかある.

❐仕事,家族,社会状況を含む個人のプロフィール
❐症状の主観的な要素
❐他感的な症状に対する問い
❐症状の流れ
❐精神的/認知/感情の状態,患者の予測やゴール
❐一般的な症状に対する注意点や禁忌事項
❐職業に関する制約
❐制度や保険に関する制約やそれに併発する感情
❐人間工学的な要素(ADLやQOL)も含めて

経験に基づいてある程度の,それぞれの理学療法士にルーティンが存在すると思うが,セラピスト自身の手技や得意分野に偏った質問内容ではエラーが生まれやすいため,幅広い視点で問診を勧めていくことが重要となる.

まずはじめに
【一般情報】
・氏名
・年齢
・主治医
・保険の種類
・電話番号
・診断名

上記の内容は,リハビリを始めるために必要な一般的な情報になるかと思います.年齢を聞くべき理由として,その年齢から起こりうる組織の病理を頭の片隅に入れることができます.例えば,高齢の患者さんであれば,退行変性や筋萎縮,運動器不安定症の要素などの影響などがあるかもしれない.という可能性を頭の片隅に入れることができます.
反対に若年者であれば,筋の萎縮や退行変性ではなく,組織損傷やオーバーユースなどの可能性もあるかもしれないとの予測をすることも可能となります.

保険の種類に関しては,保険を把握することで,金銭的な状況や起こりうる制約などを把握することができます.会社の雇用主が定めた労働条件や国が定めた雇用や疾病に対する政策などを把握することにも有効である.労働災害による保険であれば,雇用形態や会社での立場,雰囲気なども会話の中で把握していくことで,社会復帰への見込みや,クライアント自身の意識なども把握することが出来る.また,自賠責(自動車事故等)や生活保護受給等も把握することでセラピスト自身が予後予測をクライアントの身体的状態のみならず,参加制約や心理的な面でもセラピストが適切な治療方法と介入方法を決定するのに役立つ情報となる.

【診断名】に関しては,あくまでも【Drの見解】を理解するためのもととして考えていただきたい.あくまでも診断名は,診療報酬を請求するために付けなければならない名称である.限られた検査と診察の中で,考えうる可能性が最も高いもの,もしくは診療報酬を請求できる現段階の症状に一番近いと考えられる名称を付けている.

間違えてほしくないのは,【MRIやレントゲンで障害が見られる】=【患者が訴える症状】ではないことだけは理解していただきたい.

だからこそ,診断名や自身が見た画像所見を鵜呑みにして治療を進めないほうが良いと思う.皆さん最初に画像を見たいと思うのもとてもわかります.ですが,もし腰が痛いと患者さんがリハビリに来た場合にMRIを見て,ヘルニアが出ていたらどうしますか?多くの人はそれは,ヘルニアのせいで腰が痛いと思います.

そう.それが一番の問題なのです.20歳を過ぎると人間は退化していきます。
痛みを抱えていない人でもMRIなどを取ると多くの問題が見つかってしまうのです.
今,私(PTカズ)は8年前から半月板の水平断裂がMRIで見つかっています。
しかし,膝は痛くありません。半月板の損傷=膝の痛みでは無いということです

最初にヘルニアを見てしまうと,運動器疾患の【症状】に対する治療ではなく,【原因かどうかわからないヘルニアという診断名】に対する治療となってしまう。でも,痛いのは腰の筋肉かもしれません(=腰の筋肉の使いすぎによる筋性腰痛).できるだけ,症状に対する先入観を持たないように評価は順を追って行ってく必要があります.

個人的な情報やプロフィールが把握できれば,次に必要なことは【現病歴:主観的な所見】について聞いていく必要があります.ここでは,評価用紙にボディーチャートを使用すれば整理がしやすいでしょう.

ここでは,患者自身が何を感じて治療を受けに来たのか?をしっかりと聞き出すことが重要です.また,問診のはじめには症状の局所的な症状だけではなく,複数痛みがあるのであれば複数の部位にも痛みを感じている部分だけでもどのような,どれぐらいの痛みがあるのかくらいは把握しておくことが良いと思います(時間が限られているので,初回は詳しく聞く必要はないが,把握のため)

必要になる記載は,症状は広い範囲なのか?局所(ピンポイント)なのか?
どのような症状なのか?(チクチク?ズキズキ?ビリビリ?)など,あとはその強さ(NRSやVAS)などを聞くと,治療前後の変化なども追っていくことが出来ます.電気のような感覚であれば,神経症状を示唆され,だるさや気持ち悪さなどは筋肉の症状を示唆することが出来ます.

症状は身体のどの部位か?という質問をする際には,クライアントの反応として【指でさせる痛みか?】それとも,【手のひらで握る感じか?】を表現させることで,問題が起こっている組織の考察をすることが出来る.例えば「指で指せる」場合は局所的な機械的刺激による痛みの可能性があり,「手のひらで握る」仕草を行う場合は広範囲な炎症症状やデルマトームなどの神経絞扼障害などの可能性などが考えられます.

または,例えば「この支えている手を離すと怖い」などといった場合は,関節の不安定性や靭帯損傷などを予測することも出来ます.

記載方法としては,症状の変化などは記号を用いて(✓:痛み,w:しびれ,△:感覚異常 など)書き込むと,文字で書き起こさなくても時間をかけずに書き込みが可能となるでしょう.

次に症状の流れの質問です.
現症の始まりに関して詳細に質問をしていく.

❐ 症状はどのように出現したのか?
❐悪化する要因
❐軽減する要因
❐主観に対する,PTとしての関連項目の質問
❐趣味
❐既往歴
❐治療歴
❐家族歴

症状がどのように出現したか?については,症状の機序(外傷?過用症候群?)を理解しておくことが重要だと思います.外傷によれば,外力による【組織の損傷】の可能性が高く,反対に過用症候群の場合は【アライメントの不良や機能障害による不良姿勢による動作の繰り返しにより症状】を有している場合が高い.そのため,局所の症状だけではなく全身的なトータルコーディネートを行わなければ症状が再発してしまう可能性があるでしょう.学童期の子どもたちでは,ほぼ,局所の痛みでも全身を見なければ行けないかと思います.【なぜそこにストレスが掛かってしまったか?】を考えていかなければなりません.
そして,その症状がいつからあるか?を把握することも重要である.人間は【自然治癒力】を有しているため,組織損傷などによれば,今現在その組織が組織の治癒過程においてどの時期なのか?(急性期や慢性期、炎症期や細胞増殖期)を把握することで,治療アプローチ(生理学的アプローチ)が異なってくる.

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また症状の持続時間に関しては,痛みもしくは症状の強さや頻度が今までより,受診した当日の方が増悪しているか?を聞く必要がある.もし,昨日,一昨日よりも更に評価する日の症状が強い場合は評価や治療は継続すべきではない.
それはクライアント自身の症状が安定しておらず,理学療法士により症状を悪化させるリスクがとても強い.症状はある程度,右肩下がりになり始めるまでは,安静を促すべきであり,理学療法以前にやるべきことがある.

またその症状が「一日のうちでいつ起こるのか?」によっても考察が深まる.例えば,朝起きるときに痛みを有する場合は「関節内の粘稠性の問題」や「筋内コラーゲン繊維の粘弾性増加(筋が動いていない)」による筋出力異常などが考えれれる.また,反対に朝は問題ないのだが,夕方が辛いなどは,抗重力筋の筋力低下や関節円板や軟骨の水分の脱水などが考えられ,また,夜間時痛の場合は炎症所見などが考えれれる.また,食後に痛いや空腹時に痛いなど,消化器系に関連する痛みの場合もあるため,内科的な問診も理解しておくことが必要である.安静時に痛みが出るのであれば,関節の不安定性や悪性腫瘍,消化器系などが予測される.

また,一日のうちで全く変化がない.ずっとNRSが8点のままなど,痛みの増減がない方などは,整形外科的な機械的刺激による症状とはいい難く,メンタル的なものが起因している可能性がある.(整形外科的な領域であれば,痛みとはタイ方向の動きや免荷をすれば楽になるはず)そのため,仕事環境や家族環境,要介護者がいないか?などの聴取等も必要となり,痛みの誘発される要素が別にある可能性がある.その場合はあまり徒手的な介入を行ないすぎるとトラブルを起こしてしまう可能性もあるため注意が必要だ.

❐悪化する要因と軽減要因
この質問は最も重要な質問となる.それは症状を再現させるような動作や姿勢があるのか?それは単純な運動学的な屈曲や外旋だけではなく,痛みを引き起こす具体的な運動または生活動作についても詳しく聞く必要がある.それを詳細に再現出来ることが可能であれば,その動作や姿勢は何がいろいろな組織がどのような状態か?が予測することが出来る.例えば,筋の伸張による痛みなのか?収縮による痛みなのか?関節の圧迫によるものなのか?または離開によるものなのか?など.そして,痛みは持続性なのか?周期性なのか?もしくは特定の動きで起こるのか?といった質問も重要となる.痛みの質を聴取することで,姿勢性のものであるのか?運動性のものであるのかがわかる.姿勢性であれば,椎間板性や抗重力筋の持久性などに問題があるかもしれない.また,運動性であれば,収縮性組織による収縮や伸張痛や非収縮性組織の伸張痛に関連する痛みの可能性がある.

そして,患者自身が考える軽減する動作なども重要である.悪化させる動作と同様に軽減する動作がわかればそれが直接治療アプローチに繋がる.

悪化させる要因を聞く際に最も重要なことは,悪化する動作や姿勢が【本当に主訴である症状が誘発される動作であるのか?】ということだ.ときより患者は,はじめに喋っていた主訴から飛躍して別の話をすることがある.股関節の痛みを再現する動作をするために「しゃがむ」動作をしてみると,主症状じゃない腰の痛みが出ていたり,あくまでもここまでの問診は主症状に関する推論を立てているため,別な部分や別の組織の話が混ざってしまうと臨床推論のミスにつながりやすい.そのため,初回のリハビリの際には主症状(主訴)の1つ(いっぱいある場合も今日はその中の一つ)を追っていかないと混乱が生まれる.

そして,次に聞きべき重要項目は↓
❐主観に対する,PTとしての関連項目の質問

こればどういうことかというと,ここまで問診を深めていく間に,問題となる領域や組織がぼんやりと霧の中から見えてきたと思う.まだぼんやりとしている部分を更にクリアにしていくために必要なPTから行う質問である.簡単に言えば「いま出ている症状の部位や組織の関連のある質問」といったところだろうか。今まではクライアントが主導権を握り症状に対する質問をしてきたが,次はPTが主導権を握り質問を行なう.

たとえば,「腰や首が痛む」というクライアントに関して,【スポーツをしている】よりも【車の運転の方が痛みが出るか】や【デスクワークの方が辛いか?】をしていて痛みが出るか?など,同じ姿勢を取り続けることによる痛み,【過運動性:ハイパーモビリティ】による痛みが予測される.更には例えば,頸部や腕に痛みがあるクライアントで,【ずっと物を持っていたものを下ろすときに症状が出現する】といった患者は【胸郭出口症候群】の典型的な症状である.肩の患者であれば,オーバヘッドアクティビティ,いわゆる投球動作などで痛みが出るか?や痛い方を下にして寝るとクリック音がなるか?なども重要な肩症状の特徴である.

【特殊な関連項目の質問一覧:PTカズ抜粋】

■顎関節
・頭痛/耳の痛み/耳鳴り/歯痛
・咀嚼動作の困難
・開口困難
・爪噛み,歯ぎしり
・最近行った歯科治療
・ストレスの有無,緊張の有無
・仕事,スポーツ
・外傷の有無
・視力障害,聴力低下

■上位頚椎
・脊髄損傷症状(四肢感覚障害・跛行)
・制限される頚椎の動き
・偏頭痛
・耳鳴り
・めまい
・視覚障害
・頚椎のアライメント異常

■下位頚椎
・上位頚椎と同様の質問
 ・回旋と屈曲伸展の動きの違い

■胸椎
・呼吸の異常
・咳の異常
・脊髄損傷症状(上下肢感覚障害,跛行)
・自律神経障害

■腰椎
 ・咳やくしゃみによる痛み
・馬尾神経症状(膀胱直腸障害)
・脊髄損傷症状(下肢感覚障害・跛行)
 ・泌尿器や生殖器障害,排便困難

■仙腸関節
・荷重痛
・前屈痛
・片足立ち困難(もしくは痛み)
・靴下の着脱や自動車の乗降困難
・尻もちや出産歴の有無

■肩関節
・ノイズ音
・不安定感
・側臥位や腕枕時の症状
・上肢への荷重
・物を持ち上げた時は?
・頭の上での作業
・長時間物を持っていたものを下ろす動作は?

■肘関節
・回外/回内動作
・物を持ち上げたときの痛み
・握り動作の際は?
・上肢荷重では?
・反復動作では?
・ノイズ音の有無
・不安定感の有無

■手関節
・握り動作
・回外/回内動作
・物を持ち上げた時は?
・上肢への荷重
・コップなどを落とすことはあるか?
・ノイズ音
・反復動作

■股関節
・スクワットや階段昇降
・靴下の着脱や自動車の乗降動作
・座位での足組み動作の影響
・荷重時の変化
・方向転換の能力など
・ノイズ音
・つまり感
・側臥位時の症状
・家族歴や小児時の治療歴

■膝関節
・膝折れ/不安定感
・腫脹
・ノイズ音
・荷重での影響
・回旋時の影響
・ブーツなどで引っ張られたときの痛みなど
・スクワットや階段昇降の影響

■足や趾
・膝折れ/不安定感
・腫脹
・ノイズ音
・荷重の影響
・回旋の影響
・靴や装具の状況
・内科的な不調

■肺
・浅い呼吸
・咳/痰/喀血
・肺雑音
・手術歴や治療歴

■消化器系
・吐き気/嘔吐/吐血
・飲み込みにくさ
・消化不良感
・食事前後での症状
・手術歴や治療歴
・排便状態(下痢や便秘)
・黄疸
・家族歴

■心臓
・浅い呼吸
・激しい運動時に現れる肩の痛み(主に左肩),ストレス下でので現れる痛み
・不快感

■脈管系(静脈系)
・下肢痛(拍動痛)
・妊娠歴,立ち仕事の時間
・一足の痛みや浮腫
・胸部痛
・手術歴/治療歴
・服薬

■脈管系(動脈系)
・痛み
・顔面蒼白
・感覚障害
・徐脈
・聴覚低下
・めまい
・喫煙歴や既往歴

■泌尿器系
・尿の色や匂い
・排尿時痛/排尿困難感
・性行為痛
・月経周期の変化 

❐趣味やスポーツに関する内容
趣味やスポーツに関する内容を聴取することで,QOLや参加レベルでのCareしなければ内容を伝える必要がある.また,普段の生活活動の中に痛みを助長している可能性があるために趣味やスポーツ頻度やその内容などを聞くことが重要である.例えば,首が悪いクライアントがパッチワークを数時間も連続していたり.長時間運転する機会があるのであれば,治療の最後に運転姿勢や座位姿勢,作業姿勢を教育することで,症状の予防や軽減に繋がる.股関節が悪いクライアントがどうしてもゴルフやテニスをやる場合に,そのフォームを修正することで,QOLを低下させることなく治療が継続できる.多くの整形外科の外来に通うクライアントは趣味やスポーツがリハビリにより制限されるのが嫌でリハビリに来なくなる場合がある.患者の参加レベルやQOLの維持を行なうのも理学療法士の仕事であるということは忘れてはいけない.

❐治療歴に関する内容
治療歴を聞くことにより,効果のあった治療や効果のなかった治療を聴取することが出来る.

❐家族歴
症状の明瞭化ができなかった場合に有効な質問になることが多い.遺伝や形成不全,がんや心疾患といった疾患または関節リウマチや近親者が最近亡くなったか?などいろいろと問診を深める内容がある.

以上,問診を深掘りして見ました.これらの質問により,私は3つの仮説を立てています.

それは,

①分節の仮説(どこの痛みか?)

②組織の仮説(なんの組織の損傷か?)

③可動性の仮説(動きすぎて痛いのか?動かなすぎて痛いのか?)

これらの仮説を問診と姿勢動作の視診から仮説を立て,その仮説が本当に正しいのかについて評価を進めていきます.その評価の手順については別のWebsiteに簡単にまとめて記載しました.のでそちらをご覧いただければと思います.

↓↓↓↓↓↓(以下をクリック)
【運動器疾患の評価概論】

執筆者: 北海道の理学療法士_カズ

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