こんにちわ
北海道の理学療法士_かず_です
病院勤務をしていると,外来患者さんや入院患者さんの杖を多く目にします.
「前回手術をした時に杖を病院で買いました!」や
「歩くのがおぼつかなくなって,ホームセンターで買ってきました!」など,杖を買うきっかけや場所など,高齢化社会の日本では多く目にします.
しかしながら,その杖の長さや杖の種類など,理学療法士の視点として「なんでこんな長いものを使っているの?」や「なんでこんなに邪魔くさいものを選んでいるの!?」と言った事を多く目にします.
今回は理学療法士の視点から,杖の種類や特徴や杖の選び方を説明していきたいと思います!
杖の目的
杖は,歩行補助具とも言われ,自身の重心位置を適切に制御できない(体のぐらつきを自分の力で支えれない)人の歩行に対して,重心移動できる安定した範囲を広げ,歩行や立位の安定性を増やすために使われます.杖を使うことで,不安定な歩行バランスの改善や荷重面積を増やしたり,足にかかる体重の免荷をしたり,歩行速度の調整などが目的になります.
歩行補助具(杖)には,大枠として,
- ケイン
- クラッチ
- 歩行器
ケイン
クラッチ
歩行器
の3つに分けられ,その使用用途や役割は種類によって異なっている.
①ケインと②クラッチの効果
杖には,床との間を手のひらのみで保持する【ケイン】と,手のひら以外に他の腕の部分を使って複数の支持点で支える【クラッチ】とがある.
各種の杖はバランスの保持・改善を目的に使ったり,足に掛かる荷重の減少や免荷を目的にするかによって使い分ける.
支持点が多くなれば多くなるほど,体を支える安定性は増えるが,操作性が低くなり,支持点が少なくなればなるほど(例えばケイン:一本杖)支持性が低くなるが,操作性が高くなり使いやすくなる.
ケインでは,荷重を軽減したい足の荷重の20〜25%を支えることが可能であり,ロフストランド・クラッチでは,40〜50%を減少させる.完全免荷(足を付きたくない)の場合は両松葉杖の使用が必要となる.
①ケインの種類や使い方
ケインは手のひらによる一点支持のため,免荷能力も少ない.しかしながら機能性には優れ,比較的歩行能力が高いが歩行に不安がある方や,跛行により歩容(歩き方の綺麗さ)が気になる方などの歩行矯正などに用いられる杖である.
T字杖・一本杖 etc
形状も様々で,握りのデザインの違いなどもあるが,基本的に用途は,比較的歩行能力が高いが歩行に不安がある方や,跛行により歩容(歩き方の綺麗さ)が気になる方などの歩行矯正などに用いられる杖である.
値段は100円〜数万円まで様々であり,通常の用途にプラスして,折りたたみ機能がついたり,長さを変えられる機能,または杖の素材などにより値段は異なる.
T字杖の合わせ方
T字杖の適当な長さとしては,杖をつま先の前方15cm,外側15cmに設置した際に,肘を体重支持に必要とする20〜30°曲げる必要がある.肘の角度が強すぎる場合は体重支持をするのが困難になる.
特別な疾患や合併症がない場合は,免荷したい足(怪我をしている足)と反対の手で杖を持つことが望ましい(歩行時に手と足は逆が同時に出るため)
多点杖
多点杖は手による一点支持ではあるが,杖の足部を多点杖として,杖自体の独立安定機能を持たしている.免荷機能が増すわけではないが,杖の安定性が向上するため,1点杖では杖が安定しない方でも利用が可能である.
臨床的には比較的,片麻痺患者に用いられている.長さ調節に関しては基本的にはt字杖と同様である.
クラッチの種類や使い方
クラッチでは,ケインでの手のひらによる一点支持とは他に,上腕部や前腕部などで複数の点により支持を行う.そのため,免荷能力が高く,患部の痛みが強い方などには有効な杖である.しかしながら,サイズが大きく,両松葉の際には両手がふさがってしまうという難点はある.
松葉杖
上腕の近位部と手で保持するクラッチの代表である.
松葉杖は免荷・安定性拡大の目的で使用される.松葉杖の使用には上腕部・前腕部・背部の筋力が必要となる.
使用方法は,脇が圧迫されないように2〜3横指開けておく必要がある.基本的に,松葉杖の支持は上腕部近位部の内側と体側(肋骨)などで松葉杖を挟むようにして支える.
ロフストランド杖
ロフストランド杖は手部と前腕部で体重を受け支持する杖である.機能的にも操作性的にもT字杖と松葉杖のちょうど間の機能を持っており,広い世代に好かれている杖である.
海外では,比較的松葉杖よりも使われている杖である.
T字杖ではぐらついて,体重がうまく支えられないが,松葉杖はうまく使えないといった方にはロフストランド杖をおすすめしたい.
歩行器
歩行器は患者を一部囲む幅広い支持面を持って安定性がある.また,支持部は足型や車輪型などがあり,患者自身の移動能力や支持能力を見ながら車輪の個数を決めていく.
杖歩行よりも歩行器の方が安定性がある.「杖で歩けないが,平行棒や伝い歩きなら出来る.」といった患者に有効な歩行補助具である.
多くの場合は,屋外や病院,ショッピングモールなど通路の横幅が広い場所で有効性を発揮する.
自宅内では,通路で方向転換ができないなどかさばる面も見られるという欠点もある.
上手な歩行補助具の選びかた
歩行補助具の選ぶ手段としては, 患者自身の身体的な能力, 使用する環境により様々である.
身体的な観点での歩行補助具の選び方
身体的な観点から重要視しなければならないことは ①安全性 ②持久性 ③スピード(実用性)の3点が重要である.安定しているがスピードが遅くなってしまっては,お手洗いに間に合わないし,スピードを意識してしまうあまり,身体能力も備わっておらず転倒をしてしまう恐れもある.
その中で,第一に注意したいことは第三者が見て危なっかしい様子の場合は無理をせず安定性がある歩行補助具に変えるべきです.一度転倒して骨折をしてしまえば,長期臥床を強いられ,認知症や肺炎を引き起こしてしまうリスクも増えてしまいます.リスク管理という面で,周囲の方の判断は有効な判断基準かと思います.
ご高齢の方には歩行機能が高い順から
T字杖→ ロフストランド杖or多点杖 → 歩行器 → 車椅子
といった判断をしていただければと思います.松葉杖は非常に操作が難しく取得までに時間を要してしまうため,高齢者向きではありません.操作がおぼつかない状態での歩行は逆に転倒のリスクを増やしてしまう恐れがありますので,できるだけ操作が可能な物を選ぶ必要があります.
環境的な観点での歩行補助具の選び方
環境的な側面では,階段の使用頻度やベッドからトイレまでの道のりの通路幅,カーペット,敷居など,歩行補助具を使用するための環境の確認が必要となります.例えば,歩行能力が低い患者さんが歩行器を使って自宅退院される場合,敷居や段差を有する自宅であれば,歩行器を持ち上げて歩行しなければなりません.患者さん自身にそのような能力があるのか?の確認が必要です.
最適な歩行補助具を選び,生活の質の向上を
歩行補助具には外出できる喜びや,高齢者の自立心を維持してくれるというプラスの役割がありますが,選び方や使い方を間違えると,かえって身体機能を損なう原因になるおそれもあります.
杖を選ぶときは,素人判断ではなく,理学療法士やケアマネジャーなどから客観的なアドバイスを受けることをおすすめします.
体に適した杖に出合えれば、日常をより豊かにすることができるでしょう。